①分布等:北海道(札幌市以南)、本州、四国、九州 の山地に自生する落葉高木。雌雄同株。日本固有種。幹は直立し、高さ 20~30mになる。樹皮は黒褐色で、大きな波状の模様があり、大木では大きく裂けて剥がれ落ちる。 ②分類:広葉樹(直立性)-3出・掌状複葉(図5)。 ③葉は大型の掌状複葉で対生。葉柄は15~25cm。小葉は5~7枚で、中央の小葉が最も大きく、小葉身は 長さ 15~30cm、幅 4.5~12cmの倒卵状長楕円形。小葉柄はほとんど無い。先端は急に狭まって鋭く尖り、基部は次第に細くなる楔形。葉縁は不整な鈍いきょ歯がある。側脈は20~30対で、ほぼ平行に伸びて葉縁に達する。 ④葉の表面は濃緑色で無毛、裏面は緑色で葉脈上と葉腋に毛がある。葉柄にははじめ赤褐色の長毛があるが、のち無毛。若い枝は灰褐色で、はじめ軟毛があるが、すぐに落ちる。 ⑤花期は5~6月。雌雄同株。1つの花序に雄花と両性花が混ざる。枝先に長さ15~25cmの円錐花序を直立し、直径約1.5cmの花を多数つける。上部に雄花、下部に雌花がつく。花弁は4個。雄しべは7個で花から大きく突き出し、先は上方に曲がる。花の色は、開花当初の3日目までは白っぽく見えるが、その後次第に赤味を帯びてくる。これは、花の中央部にある蜜標紋が、蜜を分泌しているときは黄色であるが、蜜を出さなくなると、赤く変色するためである。この花の色の変化については、次の説がある。花粉を媒介するミツバチやハナバチは、この2つの色を識別でき、花粉を媒介しない多くの訪花者(コノハナバチ類やチョウなどでトチノキにとっては盗蜜者)は、この色の識別能力が劣るので、花粉の媒介者の蜜利用頻度を高め、盗蜜者の利用頻度を抑えることにより、送粉効率を高めることに貢献しているという説である。果実は蒴果。直径3~5cmの倒卵状で、表面にイボ状の突起が全面にある。9~10月ごろ淡褐色に熟し、3裂して1~2個の種子をだす。 ⑥名前の由来:「ト」は「十」を、「チ」は「千」を表すとして、たくさんの実がなる木という意味を持つという説、などがある。 ⑦類似種:葉裏に細軟毛を密生するものは<ウラゲトチノキ(ケトチノキ)>という。 そのほかの類似種として、次の3種がある。 「アカバナアメリカトチノキ」:アメリカ原産で鮮紅色の筒形の花をつける。 <マロニエ>:ギリシャ北部・小アジア原産で、白色に赤みが混じる花をつける。パリのシャンゼリーゼ通りの並木で知られ、別名を<(セイヨウトチノキ)>という。葉は重きょ歯で、実に棘がある。 <ベニバナトチノキ>:アカバナアメリカトチノキとマロニエの交配種で、紅色~朱紅色の花をつける。葉縁は粗い重きょ歯で、葉裏の脈上に毛があり、脈腋に毛の塊がある。 ※本種は、旧分類では「トチノキ科」とされていた。 |
小葉表 | 小葉裏 | |
小葉表拡大 | 小葉裏拡大 | |
花序(4月22日:開花1日目。1つ開花し、蜜を出しているおり蜜標紋は黄色。) | 花序(開花4日目、10個開花、すでに1花が蜜を出し終えて蜜標紋は赤色。) | |
花序(開花7日目:ほぼ6割が開花し、 半分ほど赤い蜜標紋。) |
花序(開花10日目:ほぼ8割が開花し、 半分ほど赤い蜜標紋。) |
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花序(開花13日目:ほぼ9割が開花し、 7割ほどが赤い蜜標紋。) |
花序(開花17日目:すべてが開花し、 雄花が散りはじめている。) |
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花序(開花20日目:雌花の子房がかなり膨らんでいる。) | 果序(開花23日目:雄花は殆ど散り、子房の膨らんだ若い実が20個ほどみえる。) | |
果序(開花25日目:雄花はすべて散り、子房の膨らんだ若い実が10個ほど。) | 果序(開花42日目:若い実が3個に減っている。) | |
小花穂(上と左が両性花、右:蜜を出し終えた雄花で蜜標紋は赤色、下:蜜を出している雄花で蜜標紋は黄色。) | 雄花(雄しべ7個、雌しべは退化し見えない。蜜を出し終えており蜜標紋は赤色。) | |
両性花(花柱の下部に子房がみえる。蜜は出し終えており蜜標紋は赤い。) | 樹の下には落下した雄花が多数 | |
実 | 近影 | |
近影2 | 全影 | |
幹 | アカバナアメリカトチノキの花序 | |
ベニバナトチノキの花序 | セイヨウトチノキの花序 | |
マロニエ(セイヨウトチノキ)の葉と実 | ||